大阪高等裁判所 平成11年(行コ)25号 判決 2000年5月31日
控訴人(原告)
城島孝志
控訴人(原告)
城島貞雄
控訴人(原告)
城島圭子
控訴人(原告)
浅田久美子
右四名訴訟代理人弁護士
赤坂裕彦
同
佐藤康則
同
富永紳
被控訴人(被告)
宇治税務署長 磯野与志嗣
右指定代理人
下村眞美
同
山村仁司
同
原田一信
同
三木茂樹
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人が、控訴人城島孝志に対し、平成七年七月三日付けでした平成五年一〇月二二日相続開始に係る相続税の更正処分のうち、課税価格一六億九三八〇万六〇〇〇円、納付すべき税額七億九〇六九万七五〇〇円を超える部分及び過少申告加算税五〇九六万四〇〇〇円の賦課決定処分全部を取り消す。
三 被控訴人が、控訴人城島貞雄に対し、平成七年七月三日付けでした平成五年一〇月二二日相続開始に係る相続税の更正処分のうち、課税価格三六八三万七〇〇〇円、納付すべき税額一七一九万七七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税九五万円の賦課決定処分全部を取り消す。
四 被控訴人が、控訴人城島圭子に対し、平成七年七月三日付けでした平成五年一〇月二二日相続開始に係る相続税の更正処分のうち、課税価格三六八三万七〇〇〇円、納付すべき税額一七一九万七七〇〇円を超える部分及び過少申告加算税九五万円の賦課決定処分全部を取り消す。
五 被控訴人が、控訴人浅田久美子に対し、平成七年七月三日付けでした平成五年一〇月二二日相続開始に係る相続税の更正処分のうち、課税価格二九一〇万三〇〇〇円、納付すべき税額一三六一万九〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税一三万六〇〇〇円の賦課決定処分全部を取り消す。
六 訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする。
第二事案の概要
(以下において、控訴人を「原告」、被控訴人を「被告」と称し、その他の略称の使用についても原判決に準ずる。)
一 事案の要旨及び争いのない事実等
次のとおり付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第二の一、二(原判決三頁六行目から一三頁五行目まで)に記載されたところと同じであるから、これを引用する。
1 原判決五頁七行目の「務めている」を「務めており、訴外会社は典型的な同族会社である」と、同六頁七行目の「植木畑」を「個人で経営していた造園業の植栽場(植木畑)」と、それぞれ改め、同七頁三行目の「四四年」の次に「七月」を加える。
2 原判決八頁八行目の「土地賃貸借契約書」の前に「、訴外会社の事業目的(庭石の保管、庭木育成畑)以外に使用しないとの約で賃料を月額二万円とする」を、同九頁末行の「各土地」の前に「(五)の」を、それぞれ加える。
3 原判決「一〇頁の八行目から一〇行目までを次のとおり改める。
「告として、本件土地につき右時効により地上権を取得したことを理由とする地上権設定登記手続等請求訴訟を提起した。同裁判所は、第一回口頭弁論期日に同人らが欠席したので、同年七月一五日に訴外会社の請求を認容する旨の判決を言い渡し、右判決は確定した(甲二六、弁論の全趣旨)。」
4 原判決一一頁三行目の「時価」の前に「更地の」を加える。)。
二 争点及び当事者の主張
1 訴外会社の本件土地利用は使用賃借契約に基づくものか。
右の争点に関する当事者の主張は、次に付加訂正するほか、原判決一三頁八行目から一八頁一行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(一) 原判決一三頁一〇行目の「喜代司」の前に「本件土地の地上権が訴外会社の資産として計上されていないこと、」を加える。
(二) 原判決一五頁二行目の次に、改行の上次の文を加える。
「(三) 原告らは、訴外会社と喜代司との間に本件土地につき賃貸借契約が成立し、訴外会社から役員報酬ないし給与名目で相当の対価が支払われていたと主張するが、右主張は、地代無償で地上権設定契約が締結されたとの原審での主張と明らかに矛盾しており、根拠はない。」
(三) 原判決一五頁九行目の「期間永久」の次に「・地代無償」を加え、同一六頁の五行目と六行目との間に、次の文を加える。
「本件のように、訴外会社が永久に本件土地を使用することが合意され、返還の約束が明示的にはもちろん黙示的にもなされていない場合には、明らかに使用貸借ではない。訴外会社の本件土地の使用収益の目的は、造園業を営むために植木畑として使用する点にあり、会社が存続する限り使用収益が終了することはないから、本件土地の利用関係は、単に使用収益の終わるまでの期間だけ使用する使用貸借とは契約の性質が全く異なっているのである。
仮に無償の地上権設定契約でないとしても、訴外会社は喜代司に役員報酬や給与を支払っており、地上権の権利金や地代等はこれらに含まれていたから、有償の地上権が設定されたものとみることができ、本件土地の利用関係は無償の使用貸借ではない。」
(四) 原判決一七頁三行目の「土地七ないし九」を「土地七ないし一〇」と改め、同一八頁一行目と二行目との間に、次の文を加える。
「(三) 仮に地上権の設定契約や時効取得が認められないとしても、訴外会社から喜代司に支払われた役員報酬や給与中には本件土地の権利金や地代等の支払という性質を含むものと考えるべきであるから、訴外会社と喜代司との間には少なくとも本件土地の賃貸借契約が成立している。また、右の賃借権が認められないとしても、本件土地には訴外会社のために『地上権類似の使用借権』が設定されているとみるべきである。」
2 本件土地の利用が使用貸借契約に基づくものである場合において、本件土地を自用地価額(更地価額)で評価することは適法か(当審で新たに追加された争点)。
【原告らの主張】
仮に、本件土地に対する訴外会社の使用権原が使用借権であるとしても、使用借権にも財産的な価値があるから、その評価額を零とし、原告らが取得した本件土地を自用地として評価した本件更正処分は、違憲、違法である。すなわち、
(一) 土地収用法五条一項は、憲法二九条一、三項を受けて、その土地にある使用貸借による権利を消滅させる場合においては、その権利を収用することができる旨を定め、同法六八条以下において、無償の使用貸借にも土地収用上正当な補償を要する旨を定めている。これは使用借礫も経済的・財産的な価値が認められる財産権であることから、憲法上保障された権利として、権利を制限される者に対しその価値を補償する趣旨に出た規定である。
そして、公共用地の取得に伴う損失補償基準一三条は、使用貸借による権利に対しては、賃借権に準じて算定した正常な取引価格に使用収益の状況等の諸事情を考慮した一定割合を乗じた額をもって補償する旨を定め、同基準細則第三は、右割合は通常の場合三分の一程度を標準とする旨を規定している。
(二) 相続税法は、相続財産の評価について、「当該財産の取得の時における時価により」評価すべきことを定めている(二二条)ところ、本件土地に対する訴外会社の使用借権は、前記1でみたように、地上権類似の経済的、財産的価値を有する財産権であるから、その時価は自用地価額の四割を上回る。
なお、相続税個別通達(「使用貸借に係る土地の相続税及び贈与税の取扱いについて」昭和四八年一一月一日付け直資二―一八九他。以下「使用賃借通達」という。)では、「建物又は構築物(建物等)の所有を目的として使用貸借による土地の借受けがあった場合においては、・・・当該土地の使用貸借に係る使用権の価額は零として取り扱う。」(一項)、「使用貸借に係る土地又は借地権を相続又は贈与により取得した場合における相続税又は贈与税の課税価格に算入すべき価額は、当該土地の上に存する建物等又は当該借地権の目的となっている土地の上に存する建物等の自用又は貸付けの区分にかかわらず、すべて当該土地又は借地権が自用のものであるとした場合の価額とする。」(三項)とされている。
しかし、そもそも通達に法的拘束力はない上、本件土地は植木の所有を目的としており、「建物等」の所有を目的とするものではないから、右通達の適用はない。また、右通達の取扱いは、「個人間の・・・」とされており(乙三一)、法人が借主である場合の使用賃借上の使用権は、独立した取引対象ともなり得るものであり、経済的価値を有するものとして扱うべきである。
【被告の主張】
(一) なるほど、土地収用法には、使用貸借上の使用権であっても右使用権が制限される場合には、正当な補償を要するとの規定があるが、土地収用法は、起業者が公共の利益となる事業に必要な土地等を収用又は使用するに当たり、その土地の所有者等に損失を補償させて、公共の利益の増進と私的財産との調整を図るものである。これに対し、相続税法は、被相続人の財産で、その財産を取得した相続人等の担税力に着目して課税するもので、その趣旨・目的を異にする。
したがって、土地収用法に補償規定があるからといって、直ちに相続税の課税において、使用借権を経済的・財産的価値のある財産として評価すべきこととはならないし、相続税法にそのような規定もない。
(二) 土地の使用借権は、旧借地法や旧建物保護に関する法律等により手厚い保護を受けている借地権に比べて権利性は極めて低く、それと同等の経済的価値を有するものとはいえない上、本件土地の使用関係は、喜代司と訴外会社との特殊な信頼関係に基づく使用貸借であることから、その経済的価値を零と評価して本件更正処分を行ったものである。
なお、原告らが引用する使用貸借通達は、個人間における建物又は構築物の所有を目的とする土地の使用貸借に係るその土地に関する相続税又は贈与税の取扱いを定めたものであって、本件のように当事者の一方が法人である場合についての取扱いを定めたものではなく、本件更正処分は右通達を根拠に行ったものではない。
第三争点に対する判断
一 争点1(訴外会社による本件土地利用権の性質)について
1 前記引用に係る争いのない事実等(以下「前提事実」という。)に証拠(甲二〇ないし二四、二七ないし二九、原審証人健治、原審原告圭子本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、
(一) 喜代司は、昭和四一年八月一六日に訴外会社を設立して、それまで個人で営んでいた造園業を訴外会社に引き継ぎ、そのころから土地七ないし一〇を、昭和四四年七月ころから土地一ないし六を、同社の植木畑及び庭石等の保管場所として使用させるようになったこと、
(二) 訴外会社の昭和四一年八月当時の取締役は喜代司、キサ及び原告圭子で、代表取締役はキサであり、昭和四四年七月当時の取締役は喜代司、キサ、原告圭子及び健治で、代表取締役は健治であって、訴外会社は典型的な同族会社であったこと、
(三) 訴外会社は、喜代司及びキサとの間で、寺山の土地について、土地賃貸借契約書を作成しているが(前提事実2(三))、本件土地については何らの契約書も作成していないこと、
(四) 喜代司は、昭和四七年九月ころから訴外会社に植木畑等として使用させていたマンション用地にマンションを建築するため、平成五年三月に同土地を訴外会社から無償で返還を受けたこと(前提事実2(六))、
(五) 訴外会社は、喜代司が平成五年一〇月に死亡した後の平成六年五月ころ、本件土地について地上権を時効取得したと主張して、原告らを相手方とする訴訟を提起したが(前提事実2(七))、喜代司の存命中に本件土地につき地上権の存在を主張したことはなかったこと、
(六) 訴外会社は、喜代司の存命中、同人に対し、本件土地の使用に関して権利金、地代等の名目で対価を支払ったことはないし、また、右土地について地上権を有することを前提とする会計処理をしたこともないこと、
が認められ、以上の事実によれば、本件土地の使用関係は使用貸借であると推認するのが相当である。
けだし、親族間ないし本件のようなこれに準ずる者との間において無償で不動産の使用を許す関係は、多く情誼に基づくものと考えられ、明確な契約関係として意識されないか又は使用貸借関係を締結する意思があるにすぎないのが通常であり、とりわけ無償の地上権のような所有者に大きな負担となる権利の設定を認めるには、当事者が何らかの理由で特に強固な権利を設定することを意図したと認められるべき特段の事情を必要とするところ、本件においてはそのような特段の事情も認められないからである。
2 原告らの主張について
(一) 地上権設定契約について
(1) 原告らは、喜代司が訴外会社を設立した昭和四一年八月ころ及び健治が同社の代表取締役に就任した昭和四四年七月ころに、本件土地につき地上権設定契約が成立したと主張し、原審での証人健治の証言及び原告圭子の本人尋問の結果中には、「南城園が本件土地の使用を開始するに際して、喜代司、キサ、健治、原告貞雄、原告圭子ら家族全員が相談して、本件土地について竹木等を所有する目的で期間永久の地上権を設定することを決めた」旨、右の主張に沿う供述部分が存する。
しかし、右の各供述は、前記1(一)ないし(六)の事実に照らして到底採用することができない。
すなわち、真実喜代司が訴外会社のために本件土地に地上権を設定したのであれば、訴外会社との間に地上権設定契約書を作成することは容易であったと思われるが(喜代司が寺山の土地について訴外会社との間に土地賃貸借契約書を取り交わしていたことは前記1(三)のとおりであるし、また、前提事実2(六)のとおり、喜代司は、マンション用地について京都市住宅供給公社のために地上権設定登記をも経由している。)、喜代司が生前にそうした手続をとった形跡は全く見当たらない。そしてまた、訴外会社においても、本件土地の地上権を資産として計上したこともなく、喜代司の存命中に右の地上権を主張したこともなかったというのであるし、同人が死亡した後における権利主張(前記1(五))も、「地上権を時効取得した」というものであって、地上権設定契約をいう前記の供述内容とは相反するものである。
(2) 原告らは、本件土地が喜代司から訴外会社への営業譲渡に伴って提供されたものであるところ、本件土地は訴外会社の経営にとって重要なものであり、返還の時期も定められておらず、同土地上には樹齢一〇〇年以上の樹木が植栽されているなど、その土地利用がかなり永続的となることが予定されていたこと、喜代司は土地一ないし六については訴外会社のために新たに開墾することまで承諾したことなどの事実を指摘し、地上権設定の黙示の合意がなされた(あるいは前記1で説示した特段の事情がある)と主張するものとも解される。
しかし、一方の当事者である訴外会社の経営にとって本件土地が重要であり、地上権の設定が望ましいとしても、他方の当事者である喜代司にとっては、契約書も作成しないで、期間永久、地代無償という不利な条件で解除(返還)請求の困難な地上権を設定することになるのであるし、また、訴外会社が前記のような同族会社であることからすると、本件土地に期間の定めのない使用借権を設定することによっても、地上権を設定した場合とほぼ同様の目的を達することができるといえるから、原告が主張する右のような事実があるからといって、直ちに地上権設定の黙示の合意があったとか、前記特段の事情があるということはできない。
(3) なお、原告らは、訴外会社から喜代司に支払われていた役員報酬や給与(昭和四九年一月時点で一か月七万円)の中に地上権の権利金や地代等が含まれていたとして、有償の地上権設定契約をも主張するが、右の報酬等に地上権の対価が含まれていたことを認めるに足りる証拠は存在しない(仮に原告らの主張のとおりであれば、喜代司死亡後も相続人に対して右の対価の支払が継続されるはずのところ、原告らからそのような主張はなく、その形跡はない。)。
(二) 地上権の時効取得について
訴外会社が、昭和四一年八月一六日ころから土地七ないし一〇を、また、遅くとも昭和四五年一月一日ころから土地一ないし六を、それぞれ植木畑及び庭石等の保管場所として占有使用してきたことは前説示のとおりである。しかし、右1で検討したとおり、訴外会社は使用貸借に基づいて本件土地の占有を開始したのであって、右占有は地上権行使の意思を欠くものというべきであるから、原告らの時効取得の主張は理由がない。
なお、前提事実2(七)のとおり、訴外会社が喜代司死亡後の平成六年五月に原告ら及び健治を被告として、同社が本件土地の地上権を時効取得したと主張して、地上権設定登記手続等を求める訴えを提起し、これを認容する確定判決が存在するけれども、右判決の既判力が被告に及ばないことはいうまでもない上、右判決は、被告である本件の原告らが口頭弁論期日に出頭しなかったために擬制自白が成立するとしてなされたいわゆる欠席判決であり、右の訴えは喜代司が死亡した約七か月後に提起されたものであることも併せ考慮すると、このような判決があるからといって、右の判断は何ら左右されるものではない。
(三) 賃借権設定契約等
原告らは、訴外会社から喜代司に支払われた役員報酬や給与には本件土地使用の対価が含まれていたことを根拠に、本件土地につき貸借権若しくは地上権類似の使用借権が設定されているとも主張するが、右の役員報酬や給与中に本件土地使用の対価が含まれていたことを認めるに足りないことは前記(一)(3)で説示したとおりであるから、右主張も理由がない。
二 争点2(使用借権の時価評価)について
1 原告らは、仮に本件土地の利用が使用借権に基づくものであるとしても、使用借権も地上権に類似する権利であるから、その相続財産における評価に当たっては、その価額を零とすべきではなく、土地収用法における取扱いにならい、更地価格の四割と評価すべきであると主張する。
たしかに、原告らが指摘するとおり、土地収用法には、使用借権であってもそれが制限される場合には正当な補償を要するとの規定があるが、同法は、特定の公共事業の用に供するために私人の財産権を強制的に取得することを目的として定められたもので、私人の財産権を直接に侵害するものであることから、正当な補償をすべきことを定めて公共の利益の増進と私的財産の保護との調整を図ったものである。
これに対し、相続税法は、相続によって被相続人から相統人に移転する財産に対し租税を課すことを目的とし、相続財産を取得した相続人などの担税力に着目して課税するものであって、土地収用法とはその趣旨・目的を異にするから、土地収用法に右のような規定があるからといって、相続税の課税において、使用借権について土地収用の場合と同様の評価をすべきことにはならず、このように解したからといって憲法二九条に違反するということはできない。
2 ところで、相続財産の評価については、「当該財産の取得の時における時価により」評価すべきものとされている(相続税法二二条)。右にいう「時価」とは、通常の市場取引において成立する客観的な交換価値をいうものと解されるところ、使用借権は、借地権などとは異なり、法律上の保護は極めて薄く権利性が弱いもので、ほとんどの場合貸主・借主間の特別の情誼に基づく信頼関係を基盤として成立しているものであるから、市場における客観的な交換価値は無いに等しく、土地の時価(交換価値)に特段の影響を与えるということもできないといってよく、したがって、格別の事情のない限り、相続財産の価額の評価においては、使用借権の時価は零と評価しても違法ではないと解するのが相当である。使用貸借に係る土地の相続税及び贈与税の取扱いに関しては、原告ら指摘の使用貸借通達が存在し、その一項及び三項には原告らが主張するとおり(第二の二2【原告らの主張】(二))の記載が存在する(乙三一)が、同通達による取扱いも右と同旨の理由に基づくものと解される。
なお、原告らは、右の通達に基づいて本件各更正がなされたと主張するが、右通達は、被告が主張するように、貸主・借主がともに個人の場合についてのみ適用され、その一方が法人の場合の片方の個人については、法人税の取扱いに準拠することとされている(乙三一参照)から、本件各更正は、右使用賃借通達を直接の根拠としてなされたものではない。もっとも、法人税基本通達その他法人税の取扱いをみても、個人が法人に使用貸階により貸している土地の評価について使用賃借通達三項とは異なる取扱いをすべき旨を定めたものは見当たらず、借主が法人であるからといって、当然に原告ら主張のように解すべきものということはできない。
また、原告らは、本件使用貸借は植木の所有を目的とするものであり、建物等の所有を目的とするものではないから、使用貸借通達の適用はないとも主張しているが、植木所有を目的とすることから永続的な土地利用が予定されることがあり得るとしても、建物等所有目的の使用貸借に比してその使用権の権利性ないし経済的価値がより高いというべき理由はない。
3 そして、本件においては、喜代司がその所有する本件土地を自ら設立した同族会社の訴外会社に植木畑等として無償で貸し渡したというもので、同社の代表者は喜代司の妻キサからその後長男の健治へと替わったものの、同族経営自体は変わらず、こうした親族関係に基づいて本件土地の使用貸借関係が維持継続されているのであるから、本件土地の使用借権が市場において客観的な交換価値を有するといえるような特別な事情があるとは認められない。
したがって、被告が、本件の相続税の課税において、本件土地に対する訴外食社の使用借権の経済的価値を零と評価したことは適法というべきである。
三 以上を前提として本件の相続に係る原告らの相続税を計算すると、本件各更正と同額になり、したがって、被告のした本件各処分は、いずれも適法といえることは、原判決の「事実及び理由」欄の第三の三(原判決二三頁末行から同二五頁六行目まで)に説示のとおりであるから、これを引用する。
四 そうすると、原告らの本訴各請求は理由がないのでこれらを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は正当であって、本件各控訴はいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日平成一二年一月一九日)
(裁判長裁判官 鳥越健治 裁判官小原卓雄及び裁判官川神裕は、異動につき署名押印することができない。裁判長裁判官 鳥越健治)